歴史にはロマンがあります。
あの時にこうだったらとか過去の歴史事象をを振り返り思いを巡らすだけでその先は無尽蔵の広がりを見せます。
そんなことに思い巡らすことは私以外でもあると思うんですけど、これを読んでくださっている方はどうなんでしょう?
私は時々思い巡らすことがあります。
明治維新というものがなかったら、薩長主導の明治政府がなかったら、きっと第二次世界大戦(太平洋戦争)で日本が敗戦ということも、広島、長崎に原子力爆弾が投下されることもなかったのではないかということ。
ちょっと前になりますが、2023年年始に久しぶりにちゃんとした書店に行ったさいに目にはいったのが新書『対決! 日本史3 維新から日清戦争編』
手にとりざっくり目を通すと『安部龍太郎』と『佐藤優』がテーマ(本著は 維新から日清戦争編』)に沿った形で対談したものをまとめたものになるのですけど、とにもかくにも対談している二人が二人ですから見出しだけでワクワクしてきます。
購入しようと思ったのですが、タイトルが『対決! 日本史3 維新から日清戦争編』、『日本史3』です。
ということは既に1,2があるはず、巻末を確認すると・・・
- 対決! 日本史 戦国から鎖国編
- 対決! 日本史2 幕末から維新編
がすでに発売されているではありませんか。
3巻すべて揃えてもいいのですが、最初に読みたいのが前述した『薩長主導の明治政府がなかったら、第二次世界大戦(太平洋戦争)で日本が敗戦ということも、広島、長崎に原子力爆弾が投下されることもなかった』に繋がることになる今回タイトルにもなっている『対決! 日本史2 幕末から維新編』ということで、書店には置いてなかったので、アマゾンで購入。
届いた本書の裏帯にはこう書かれています。
安倍
明治維新には「功」の部分もたくさんありますが、「罪」の部分もいっぱいあるのです。明治維新の「罪」の部分が、昭和20年の敗戦を招いた。実を言うと、明治維新こそが敗戦の直接の原因だとさえ思うのです。
佐藤
「明治維新は功罪相半ばするのだ」という視点で、歴史を等身大で見ていくべきです。明治維新は古い過去の産物ではありません。あの時代をどう評価するという問題は、今も回答が出ないまま積み残されているのです。
まさに『安部龍太郎』は私の考えていることと同じことをおっしゃているではありませんか、ただの歴史好きの素人と現役で活躍される歴史小説作家と同じ考えを持っているというだけでも読む前からワクワクします。
ここからが本編についてとなるわけですが、書評についてこと細かに書くつもりはないので、本書の目次を起こしてみました。
画像でも良かったのですが、文字に起こしたほうが解り易いと思いましたので・・・
第1章 ペリー来航とパラダイムチェンジ
- 天皇・幕府・大名・武士・庶民というヒエラルキー
- ユルゲン・ハーバーマスの『未来としての過去』
- 年間98万箱の紙が運び込まれていた江戸
- ペリーの黒船に物売りに出かけたたくましい漁民
- 米・紙・塩・蝋が生んだ富の集中
- 欧米の船が極東の日本を目指した理由
- 開国前に琉球に居座った宣教師ベッテルハイム
- 明治維新の20年前に出版された『共産党宣言』
- 4カ国艦隊による下関砲撃事件
- 500万両もの借金をチャラにしたカラクリ
- 朝河貫一と白虎隊の隊員だった山川健次郎
- 外敵から日本を守れなかった「名ばかりの征夷大将軍」
- 右翼思想家・権藤成卿が重視した常陸と信濃
- 「表日本」「裏日本」というパラダイム
- 菅直人首相「奇兵隊内閣」というズレたネーミング
- 京都人にとっての鳥羽・伏見の戦い
- 鎖国時代も外界に開いていた「四つの窓」
第2章 「パクス・トクガワーナ」時代の終焉
- 江戸の「パクス・トクガワーナ」から乱世の維新へ
- 講座派と労農派の「日本資本主義論争」
- 行き詰まった時代に勃興した「ええじゃないか」運動
- 『坂の上の雲』の司馬遼太郎史観
- 今よみがえる西郷隆盛語録
- 西郷隆盛が自由民権運動に走っていたら・・・?
- 明治維新と琉球処分
- 海外貿易に見る日本史の法則
- 貧乏神と福の神
- エゴイズムと膨張主義
- 幕末に浪人が増えた理由
- 享保・寛政・天保の改革
- 寺請制度で民衆をコントロールした中央政府
- 全日本仏教会理事長の嘆き
- 民衆宗教家した日蓮宗と浄土真宗
- 商業活動とリンクする宗教運動
- キリスト教ネストリウス派と浄土真宗の意外な共通点
第3章 江戸無血開城の奇跡
- 上野公園内に残る「彰義隊の乱」の痕跡
- 孝明天皇はヒ素で毒殺された!?
- 軍艦を使った600キロ先へのインテリジェンス戦争
- 明治維新の真実を如実に知れ
- マルクスの死期を早めた「薬としてのヒ素」
- 軍事力とソフトパワーを組み合わせた幕末のハイブリット戦争
- 「宵越しカネはもたねえ」で暮らせた江戸の平和社会
- 勝海舟と『氷川清話』
- 政敵を潰さなかった明治政府の智慧
- 江戸の日本人に刷り込まれていた「戦争は悲惨だ」という記憶
- 山岡鉄舟と輪王寺宮
- 薩摩藩邸焼き討ち事件
- 北関東と江戸湾に鎮座していた陸軍と海軍の精鋭部隊
- 江戸焦土化に対抗するための150万人大移動計画
- 英仏代理戦争の危機を振り切った徳川幕府
- 局外中立の布告は外交・安全保障のリアリズム
- 黄表紙本や歌舞伎、浮世絵がもつ力
- パリ万博で日本史上初の勲章を授与した薩摩藩
- 焼酎とサーカスと芸者でパリっ子を魅了した幕末日本
- もし江戸無血開城が失敗していたら・・・!?
- 西の都と東の都
- 政治を混乱させる現代版新撰組と現代版奇兵隊
- 征韓論に火をつけた「八戸事件」の謎
- 朝鮮と日本に勃発した「書契問題」
- 歴史学者・與那覇潤の『翻訳の政治学』
- 華夷秩序から見た野蛮国・日本
- アメリカ船シャーマン号の焼き討ち府県と金日成神話
- 八戸文書=薩摩藩の謀略説
- 朝鮮が日本との国交を拒んだ理由
- 岩倉使節団留学による「留守番政権」
- 場当たり的だった時代錯誤な征韓論
- 吉田松陰の尊王攘夷思想に駆られたアジア進出
- 琉球国の「開化党」と「頑固党」
- 中央政府の権力闘争で敗れても帰る場所があった薩摩藩士
- 西郷隆盛が造った「私学校」という名の軍隊
- 火縄銃からゲベール銃、ミニエー銃への技術革新
- 赤松小三郎を暗殺した中村半次郎
- 田原坂の戦いを決した警視庁「抜刀隊」
- 戦争に勝利するために必須だった懐中時計
- 軍歌「抜刀隊」と西郷どんのネガティブキャンペーン
- 大学生のサークル活動のように出たとこ勝負だった明治維新
- 革命の時代に年を取りすぎていた西郷どん
- 睾丸がスイカ大に膨らんでいた西郷隆盛の悲哀
- リーダーの判断を決定的に誤らせる痛風と痔瘻
- 現代人に通底する長州藩へのアレルギー反応
第5章 中央集権体制の確立
- 王政復古の大号令と重商主義への転換
- 日本が植民地化を免れた理由とは
- 国家神道とイデオロギー
- 版籍奉還と全国300藩の無力化
- 軍隊という暴力装置
- 『学問のすゝめ』とサミュエル・スマイルズ『自助論』
- 五箇条の御誓文と明治新政府
- タリバンの仏像破壊と同じことが秩父で起きていた
- 廃仏毀釈に失敗した奈良・吉野
- 学制改革と能力主義
- 薩摩・長州出身者が出世を阻む「ガラスの天井」
- 奥州出身の石原莞爾と南部藩がルーツの東条英機
- 富国強兵のために必要だった学制改革
- 新聞紙条例と讒謗律、大逆事件
- 米食のせいで陸軍で流行した脚気
- にじり寄る帝国主義の時代
- 田畑永代売買禁止令
- 地租改正と百姓一揆
- 税の逆進性と反対給付
- 森鴎外『かのように』と夏目漱石「現代日本の開花」
- 中江兆民が見たパリ・コミューン
- ユーモアの中江兆民と弟子・幸徳秋水
- ルソーの天賦人権論と江戸幕府の親和性
- コミュニティとアソシエーション
- 植木枝盛の思想は一種のアジア主義
- 板垣退助の愛国公党と民撰議員設立建白書
- いつの時代も面倒くさい人事異動
- 新島襄が国会開設に反対した理由
- 板垣退助の愛国公党と立志社
- 通俗道徳と新宗教の誕生
- 大正デモクラシーと普通選挙
- 大川周明、蓑田胸喜、三井甲之
- 権藤成卿と黒色戦線社
- 大久保利通の大阪会議と立憲政体樹立の詔書
- 大隈重信の右足を吹き飛ばした爆弾デロ
- テロによって消された大久保利通
- 自由民権運動を弾圧する新聞紙条例と集会条例
- 明治維新礼賛論の危うさ
上記の通りで幕末から明治にかけて様々なことについて書かれていますが、だいたいひとつのテーマが2~3ページくらいなので、読み易いですし、知見を得るという意味では調度良い感じの構成になっています。
上記の中で気になるテーマとかありますか?
まぁたくさんありすぎるので、絞るのは難しいとは思いますが、私が読む前に目次に目を通した際にもっとも気になったのは、第3章 江戸無血開城の奇跡 『孝明天皇はヒ素で毒殺された!?』ですね、これは昔から言われてきたことですが、この説について具体的な事実を提示してくれています。
主観ですけど薩長のどちらかによって『孝明天皇』の毒殺は実行されたと思っています。
当時『公武合体派』の『孝明天皇』は倒幕を目的とする薩長には邪魔な存在ですし、天皇が毒殺されたなんてことは皇室においても口外できるわけありません。
皇室内の責任問題、政治問題になりますし、そもそも皇室は武力を持たないのですから圧力に屈するしか道はないのですから。
時代の流れは倒幕側に傾いていましたし、勝者が歴史を作ることはいつの時代もかわりませんから、勝ってしまえばどうにでもなるし、皇室という極めてデリケートな問題ですから、このことが公になることもないし、公にもできなかったことは容易に想像できると思います。
また、ページ数は少ないのですが、本稿において『勝海舟』、『西郷隆盛』が成し遂げた『江戸無血開城』は、画期的な歴史だと二人は結論付けています。
これについては私論があって、もし戦争になって官軍が勝ったとしても官軍側の兵も無傷で済むわけないし、当時150万人いたといわれる江戸庶民を敵に回し、さらに江戸の町は焦土となり、戦後処理がどうなるかぐらいは解りそうなもんだし、今も英雄視される『西郷隆盛』ほどの人物がこのくらいのことは解っていたと思うんですよね。
全面戦争になった場合、幕府を支援するフランス、官軍(倒幕軍)を支援するイギリスが介入して最終的に日本は英仏の植民地化される可能性があったという説がありますけど、それは後から研究者が『江戸無血開城』を成し遂げた『勝海舟』と『西郷隆盛』を拡大評価するためのものであって、英仏がこの時点で日本に対して支援以上のことができないことは、本書の別頁でも書いています。
ただ、英仏に支援以上のことができないことなど、情報量が少なく、得る情報も当事者である英仏からのものと考えられますから、『勝海舟』と『西郷隆盛』がその英仏が本格参戦する可能性なんてことはろくに考えてなかったように思えるんですね。
その後の二人を見ているとそこまでの考えはなく、繰り返しますが二人を拡大評価するために取ってつけたものであって、最初から江戸で開戦する気はなくて『江戸無血開城』というのはパフォーマンスと評しても言い過ぎではないように感じるのですけど。
確かに官軍兵士も旧幕府軍兵士も一触即発という状態であったのを『江戸無血開城』によってその危機を救ったという意味では大きな意味を持つと思うのですが、江戸の町は救いましたが、両者が矛を収めるわけでもなく、その後は奥州列藩との戦争となり、奥州が戦火に包まれるなか『勝海舟』は表立った行動は一切していないのだから『福沢諭吉』にも批判されるわけです。
というように2~3頁の題目にも関わらずここまで話を広げられます。
二人の対談内容を自身の主観で文字に起こすと膨大な量になるし、そこまでのパワーを費やす気力もないので『江戸無血開城』だけにしておきます。
多くの人はなぜ日本が敗戦国になったのか、なぜ今の世の中があるのかなんてことはあまり考えないとは思います。
でも、過去(歴史)を知ることによって現在との繋がりを改めて感じることができるし、それは少なからずこれからの人生の財産になると思います。
とても読みやすい本なので少しでも興味を持った方は手に取って欲しい一冊です。
現在4巻まで出ています。
私が取り上げた『対決!日本史2 幕末から維新編』に限らず、興味をもった巻から手にとってみてはいかがでしょうか。
敗戦後の教科書近代史はGHQにより作られたものであることを忘れないでください。